Funado Yoichi
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革命

人はこれを転向と言うかも知れない。だが、何と言われようといい、発展段階論を取るかぎり生産力拡大主義からは逃れられないのだ! それでは結局、帝国主義的な世界秩序の枠を越えることはできない。現在、山岳地帯のクスコ県とプーノ県の県境一帯で新たな闘争が解しされている。かつてのウーゴ・ブランコや今日の<<輝ける道>>派とはまったく無関係な闘争が! あれこそが世界の秩序を根底から覆す第一歩なのだ。もしこのエル・フロント監獄から抜け出すことができたら迷わずそのインディオの戦線に合流する。そうだ、かつての同士トルカチェのように!

神話の果て


「確かに、おれはチリの解放組織に属している。だが、言ってしまえば、傭兵みたいなものだ。革命が成功すりゃ、おれみたいな人間は何の必要もなくなる。もちろん、おれは金で雇われてるわけじゃねえぜ。逆だ、連中の武器の購入資金のかなりの部分はこのおれが現実につくっている。しかし、そのうちにまた何かが起きて、このおれは組織から追放されるような気がしてならないんだ。それだけじゃない、刺客も送られてくるだろう、むかしむかしレバノンでそうだったように…」

「なにがあった、レバノンで?」

「西ベイルートがイスラエル軍に包囲されたとき、パレスチナ人の最後の反撃部隊が無残なかたちで潰された。そのなかにパレスチナ解放機構の格闘技教官だったおれがいた。潰されたのは裏切りがあったからだよ。反撃部隊の秘密拠点をイスラエル軍に通報したのは教官時代におれが眼をかけていた男だった。それで、このおれにも裏切りの疑いがかかり、次々とパレスチナ人の刺客が現れはじめた。おれが中東を逃げ出し、南米を新たな行動地として選んだのはそういう事情だよ」

「痛ましいことだが、同情はしねえぜ」

「わかってるさ、マルチネス、そんなことのために喋ってるんじゃねえ。おれが言いたいのはたったひとつだ。どうあろうと、このおれは生き延びるってことさ。後悔なんか、何ひとつしちゃいねえ。どこでどんな扱いを受けようと、おれは生き延びる。世界のどこかが引っくりかえるのを見届けたら、またどこか硝煙の臭いのするところへ向かう。日本を棄てたときから、それがおれの宿命だと考えている。帰るところのあるあんたが羨ましいには羨ましいが、そういう孤独もまた悪くねえものさ」

(『伝説なき地』)


「想えば、おれは18のときから革命の一言のためだけに生きてきたと言ってもいい。党派のなかのいざこざにうんざりしたことは何度もあるが、それでも革命の豊穣さを疑ったことはただの一度もなかった…<中略>…革命。繰り返しになるが、おれはこのためだけに生きてきたといっていい」

砂のクロニクル


ポーランドはずっとロシアに踏みにじられっぱなしになっている。これを救うのはやはり貴族だ。無知な農民や強欲な商人たちじゃない。あの連中はただ利用しさえすればいいのだ。ヨーロッパの啓蒙主義者たちが理想とした貴族共和制だけが明日を拓く。マホウスキはそう思いながらぐいとグラスを空けた。

「ただね、気になることがある」

「何です、それは?」

「フランスだ」

「どうしたんですか、フランスが?」

「去年の春ごろからどうも様子がおかしい。あちこちで食糧暴動が起こった。夏には第三身分の連中が騒ぎだしたため、しかたなく聖職者や貴族が連中の代表を呼び秘密の会合を持ったという噂が流れている。それが三部会と呼ばれているらしいんだがね」

「ヴォルテールは何といっているんです、そういうことにたいして?」

「やつは死んだ、去年な」

「ほんとうですか、それは?」

マホウスキは声をうわずらせた。今日の自分を創ったのはパリでつきあった百科全書派の巨魁たちなのだ。それがいまこういう行動を取らせている。

「ディドロはどうなんです?」

「わからない、ディドロがどんなことを言ってるのか私の耳には聞こえて来ていない。しかし、フランスがいますさまじい勢いで揺れはじめたのは確かだ。これから先、何が起こるか見当もつかないぐらいね」

「まさか革命が?」…<中略>…

「いいかね、ステファン、もしフランスで革命が勃発し、第三身分の連中がブルボン王朝をぶっ倒したらどうなる? 商人やら鋳掛け師やらが政治を動かすようになったらどうなる? 貴族階級はかならず潰される。ヴォルテールやディドロだってそんなこと望んだわけじゃない。そうだろ? 第三身分のいかがわしい連中はヨーロッパのことなんか考えちゃいない。じぶんたちの利益だけが重要なんだ。もしフランスに革命が起これば、それは他にも波及するだろう。そうなると、ヨーロッパ全体ががたがたになる。そんなことを許していいと思うかね、ステファン、あってはならんことだよ」

蝦夷地別件



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