Funado Yoichi
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幽境よりの復讐者

徹底して痛めつけられた連中が歴史から学びえたただひとつの法則は、単純明快な反比例式であった。やつらの善はおれたちの悪、やつらの吉はおれたちの凶、やつらの天国はおれたちの地獄、天国の住み心地がよくなればよくなるほど地獄の哀しみは深くなる−−これ以外にはない。F・ファノンのいうマニ教的二元論は、植民地世界の痛めつける側の収奪論理の出発点であるが、同時にそれは痛めつけられる側の歴史認識の到達点でもあった。だから、痛めつけられっぱなしでいたくなかったら、当然、この反比例を逆転させねばならない。このポジティブとネガティブの関係をひっくり返さねばならぬ。「おれたちが天国に這いあがるためには、やつらを地獄に突き落とす必要がある…」

「…おれがなぜインディアンからも嫌われるのか。たぶん、おれの体内から漂ってくる血の臭いのためだ。白人の暴虐を迎え撃とうとするインディアンは、血に飢えた白人たちの臭いを知っている。それと同じ臭いをおれの体内に嗅ぎつけるのだ。だが、鬼神となる以外にどうやってこの過酷な状況を突き破ることができよう。それ以外にポジティブとネガティブの関係を逆転させる可能性はない。おれがクレイジー・ホースやシッティング・ブルのごとき英雄あつかいされないだけでなく、インディアンが忌諱する白人像と二重写しになって異端視されようとも、それがいったい何だというのだ」

そして、おそらくゴヤスレイは胸を張って逆にこう問いかけるにちがいない。

「誰がいったい、あの天国の住人どもを震えあがらせたのか? インディアンの伝統を守り悲壮な最期を遂げた立派な酋長たちか? それとも血に飢えたこのおれか?

叛アメリカ史


「考えていることを正確に言えるような人間に人なんか殺せねえ。なぜ、ヴェトナム難民がこんなことをしなくちゃならないかをやつの口から聞いたろう? おれの気持ちをうまくまとめりゃ、ああだ。だが、おれは革命だの何だのときれいごとを言うつもりはねえ。おれはおまえと一緒になってメキシコでインディオを殺したんだからな。そんなことを口にする視覚はどこにもない。おれはただ、このアメリカを火だるまに追いこんでやりたいだけだ…」

非合法員


「歴史の激突点に住んで血を流させられた連中を邪魔もの扱いにして世界を丸く収めようとする動きにたいして」カオ・バン・クアンは言葉を噛みしめながら言った。「一矢報いることが、ヴェトナム難民が世界史の中で果たせる唯一の役割だ」

非合法員


「おれはおまえがあの男に勝てないと話してるだけだ!」インディアンは急に声を荒げた。「あいつは何者かしらんが、南ヴェトナム政府軍の中にあいつみたいな男はひとりもいなかった。まるで解放戦線の連中みたいじゃないか」「解放戦線と同じだと? 冗談じゃねえ! やつは南ヴェトナムから尻尾巻いて逃げてきた難民だ。ただ、軍隊にいたんで銃が使えるだけだ」「だが、いまは火の玉になっている」「それがどうした? おれは殺すといったらかならず殺す」「おまえには殺せない。他人に説明できないような個人的理由しか持ちあわせていないおまえがどうして火の玉になっている者を殺せるものか」シヴィート・ベアランナーは抑揚のない声で続けた。「おまえには見えないのか、あの男の体全体から吹き出している炎が!」

非合法員


人間としての名誉や尊厳にこだわって行動するかぎり人間としての限界も越えることはできないのだ。ぶつかりあえば、結局は総合力の優るほうが生き残ることになる。それをぶち破るにはただひとつ、完全な幽境からの使者と化す以外にない

猛き箱船



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